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しばらく無言だった馬車の中で、その静寂を壊したのは向かいに座っている金髪の主人だった
俺と右隣にいるエニスに向かって、特に冷たくも優しくもない低いその声で話し始めたんだ
「俺達以外は屋敷にいるが、一応自己紹介でもしておこうか」
車窓に肘を置いて外を眺めていた目線がこっちに向いて、主人は気を引き締めるように足を組み直した
「俺はグルッペン・フューラーだ。一応これでも世界的に有名な名なのだが、お前達は知っているか?」
「しらないわ」
「ぞ、存じ上げず申し訳ありません…」
能天気に首を横に振って無知であることを証明したエニスに、その態度の所為で怒られたらどうすんだと内心ムカついたが、主人の方は何も気にしていないような感じで「そうか」とだけ言った
これ、屋敷に到着したらキッツいお仕置きルートじゃね?
あ…、足が爆笑し始めてる。お願いだ、震えよ止まってくれ
「まぁ、お前達を買うための金は俺が出している。
立場はキチンとわきまえとくように、特に小娘」
「”こむすめ”じゃなくて、エニスよ」
「………はぁ」
余計なことを言うんじゃねぇよエニス
この溜め息は確実に屋敷に着いた途端に俺らをボコボコにすることを決意した溜め息だよ絶対に
どこが「良かったな、優しそうな主人じゃないか」
だよ、あの売人!!
はっ、つまりアレか?
優しい=可愛がる=暴力、って事かよ
まぁそりゃそうだろうなぁ!!
だったら最初っから雑に扱ってくれよ悪趣味すぎんだろうがよぉ
悶々と俯いて考えていれば特徴的な低いその声が再び耳に届いて、反射的に顔をあげた
前の主人は話している時に顔が見えていないと、髪の毛を引っつかんで無理矢理目を合わせてきたから
「この眼鏡が”鬱”、そっちのヘルメットが”ショッピ”で、今この馬車を動かしてるのは”ひとらんらん”だ」
それぞれ二人とも軽い会釈をして、ひとらんらん
という人は声が聞こえていたのか、御者とこっち側を隔てるカーテンみたいのから顔を出してまで会釈をしてくれた
丁寧なその雰囲気に悪寒がして、鳥肌がたつ
「先程言ったように他にも何人か屋敷にいてな。そいつらもお前達二人よりは上の立場ではあるが、書類上での主人は俺だと言うことを忘れないように」
わかったか?とそこだけ不思議と柔らかい声であったのが本当に怖すぎた
なのに「うん」で返したエニスだったから本当に、ふざけんなって殴りたかったけどそんなことできるはずもないから
俺は丁寧な返事を返した
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作者名:ねっこんこん x他1人 | 作者ホームページ:http://nekokobuta
作成日時:2024年3月20日 2時